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CEOニュースレター

お金のない世界

2011年12月

先日、あるベンチャー企業の社長のお話をお聞きしました。株式を上場され、大層勢いがある様子でした。その社長が、ちょっと耳を疑いたくなるようなことをおっしゃっていました。なんとこの会社の企業理念は、「世界平和」なのだそうです。そのためには、貨幣のない世の中の実現が有効であろうとのことでした。自分が創業した会社を上場し、お金の恩恵を思う存分受けながらやりたいことをやらせてもらっているのに、一方でお金を世界平和の敵と言い切れる自己矛盾を、まったく気にされない心の太さにも恐れ入りましたが、まるで中学生のようなことを、大人になっても真顔で大勢の聴衆の前で語れる無垢な気持ちに、正直空恐ろしいものを感じました。

お金が無くなれば世の中どうなるのか?誰でも中学生くらいのときに、一度は考えます。そしてそれは、生きていく上で何の役にも立たない抽象的かつナイーブな結論に到達します。例えば、こういう結論です。「人間にとって本当に重要なものは物質的な豊かさではない。心の豊かさこそが最も重要である。夢の実現に向かう純粋な気持ち、社会に奉仕する崇高な精神こそが重要なのである。」一体これは何を言っておるのでしょうか?実は何も言っていません。ただの言葉遊びです。真実は、「夢の実現や社会奉仕にはお金が必要である。」これです。
 また、このような結論もあります。「金銭的な欲望を捨て、人類が皆、愛で繋がれば、戦争はなくなる。」なくなりません。猿もライオンも金銭的な欲望はありませんが、争いをしています。ただ人間ほど知能が高くなく、組織行動の質も、武器の性能も高くないので、闘いが大掛かりにならないだけです。資源が限られている以上、争いは起きるのです。また、愛で繋がると言っても、その愛の定義や繋がり方の違いが戦争の原因になります。こういうのを宗教戦争と言います。愛は地球を救うこともあるかもしれませんが、一方で地球を大戦争に巻き込みかねない危険な存在にもなりうるのです。

むしろ、人間は物質やサービスの価値を金銭的な価値に置き換えてトレードをすること、つまり経済を発達させたからこそ、資源が限られていて、考え方が人それぞれによって絶望的に違うにもかかわらず、今のところ壊滅的な大戦争は起こっていないという方がより真理に近いでしょう。物やサービスは金銭的な数値に置き換えて交換し合うという、体力に依存しないで公平性を担保するという画期的なしくみを創造し、普及させたからこそ、人類はこれだけの集団力と武器を持っていながら、殺し合いによる資源獲得が日常化しないのです。金銭的な秩序を否定し、各人が夢や愛に突き動かされて暴走する社会は、お互いが何を考え、何をやらかすのかわからないという、危険極まりない無秩序ワールドです。
 心配しなくても、そのような世界はそう簡単には到来しません。何故なら、金銭的な価値を無視して夢や愛で突っ走るような危険な存在は極めて少数であり、こうした存在は、まず社会から淘汰されるからです。一方、夢や愛の金銭的価値に対する絶対優位を唱えながら、自分がお金を得るのはまったく別問題というタイプの人は結構いますが、このタイプは、大きな問題とはならないでしょう。バレてないと思っているのは本人だけですから、大勢に影響はありません。

ただ、もしかしたら…と思わせるのは、科学技術の進歩です。今、ロボット技術はどんどんと進歩しています。やがてこのロボット達は、人間が行っている業務を生産もサービスもすべて行うようになるかもしれません。ロボットは賃金を求めませんから、すべての物やサービスは、これだけでも相当値段が下がります。更に、空間の多重化技術により、土地の量を無限大にし、物体構築技術により、好きなときに好きなものを瞬時に、例えば空気中の有機成分等から作り出せるようにすれば、物質的欲求はすべて限りなく無料で満たされることになります。あとは、こうした社会を維持するための完全な再生エネルギーを開発すれば、もはや貨幣は必要ありません。世の中、すべてのものが無料で、何でも手に入るようになります。

ここまで究極に科学技術が発展すれば、確かに貨幣は必要なくなるでしょう。しかし、その時に人間は何をするのでしょうか。物質的な欲望がすべて満たされて、今度は精神的な満足度の質を巡って争いが激化するのかもしれません。例えば、他人から思いやりや愛の深さを獲得することを競い合い、相変わらず戦争をしているかもしれないということです。或いは、もう現実世界の争いに嫌気がさして、確かに夢に生きることになるのかもしれません。ただその夢というのは、いわゆる達成するための夢ではなくて、寝ているときに見る本当の夢です。現実の世界に、もはや夢はありません。だから、人間は皆ずっと眠るのです。そして、心地よい眠りの中で自分の頭が作り出す、疑似的なフワフワ感を味わう。そんなことをしているうちに進化した猿が、現実世界を取り仕切るようになっているのかもしれません。
 以上、中2病おじさんの妄想でした。

代表執行役CEO  奥野 政樹

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